1人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんなきみに、オススメがあるよ」
わたしは、指を立ててみせた。棚から、数冊の本を抜き出してくる。
それは、コミック本だった。
「剣道少年の話。少女じゃなくて、申し訳ないけれど」
わたしが笑うと、少女もかすかに笑ってくれた。
「初心を思い出す、キッカケになるかもしれない。まあ、読んでみて」
わたしは、本をまとめてラッピングし、袋に入れた。
「がんばってね」
言って手を差し出すと、少女が、ぱっと顔を上げた。
「ありがとう、ございました……!」
「こちらこそ。これまで、ありがとう」
ぽろぽろと大粒の涙をながしながら。彼女は両手で、わたしの手を、そっと、にぎった。
歩んでいく、前へと進んでいく背中を見つめながら。
あの本が、彼女の助けになればいい。そう、強く願った。
そうして、わたしは、閉店の準備を進める。
何人の人間に、どれだけの本を、わたすことができただろう。
後悔はないか。
わたしは、まだまだたくさんの在庫を見て、思う。
これだけの本が、ここには、あったのだ。自分で、おどろいてしまう。
だてに、長いこと営業していたわけではなかった、ということか。
扉の開く音がして、わたしはそちらを向く。
最初のコメントを投稿しよう!