15人が本棚に入れています
本棚に追加
雪乃の依頼
「こんにちは」
「いっ、いらっしゃいませ・・・・・・っ!!」
雪乃は後ろ手にドアを閉めると、にこりと八雲に微笑みかけた。
フレアスカートの裾をひらりと揺らし、小説が陳列されている書架へ向かう。
八雲はうるさくなる鼓動と頬に集まる熱を必死に抑えながら、その横顔を密やかに目で追った。
透明感のある、白い肌。
ダークブラウンの長く伸ばした柔らかい髪が、足取りに合わせふわふわと揺れ動く。
眉の辺りで切り揃えられた前髪は、優し気でぱっちりとした瞳をより際立たせていた。
泉雪乃はすぐ側の大学の薬学部へ通っており、この辺りではその愛らしい容姿が噂を呼び、ちょっとした有名人であった。
『クスノキ堂』を初めて訪れたのは、去年の冬。
穏やかな光に照らされて、雪がひらひらと舞い落ちる午後だった。
真っ白なコートに身を包み来店した彼女を、八雲は冗談ではなく、雪の精か何かが現れたのかと思い、一瞬にして心を奪われたのである。
最初のコメントを投稿しよう!