雪乃の依頼

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『確かあの娘は、何度か見かけたことが・・・・・・ほう、そうか。いやはや、なんとも解りやすいな、八雲は』 『あの阿保面を見ろ、バレバレなんだよ』 『雪乃はとっても可愛いもの!無理ないわ』 その囁きが他人に聴こえないのを良いことに、お喋りを始める三冊。 八雲は真っ赤に染まった顔で咳払いを一つすると、カウンターの上に置いてある彼らを睨む。 「ちょっと・・・・・・何を勝手にッ・・・・・・!」 ヒソヒソと小声で反論する八雲を面白がるようにからかっていると、ふいに雪乃がカウンターの方へ歩み寄って来た。 「あの」 「ははははい!?なッ、何でしょう!?」 「実はお願いがあるんです」 「お、お願い・・・・・・ですか?」 八雲の様子に口元に指を当て、クスリと微笑み頷く。 「私、恋愛小説が読みたくて探していたんですけど、悩んでしまって。もしよかったらクスノキ堂さんのお薦めを読んでみたいなって」 「僕のお薦め・・・・・・なんかでいいんですか!?」 雪乃は後ろの書架を見渡し笑顔をこぼす。 「はい。こんなに沢山の素敵な本に囲まれて過ごしている店主さんに、選んで欲しいって思ったんです」 向日葵のような・・・・・・ いや、もう少し繊細で控え目な、白百合のような無垢な笑顔に、八雲は迷わず依頼を受けた。 二日後の夕方にまた顔を出すと言い、「ハッピーエンドがいいな」と呟いて、雪乃は『クスノキ堂』を後にした。
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