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『ねえねえ!私は?恋愛小説よ?』
「君の物語は悲しすぎます。雪乃さんはハッピーエンドを希望してたでしょう」
『なあ、八雲よ!スカーレットの右下の奴はどうだ?あいつ、何ていったっけ・・・・・・』
「『戦火』ですか?ううん、女学生向きじゃないと思うんですよね」
『君達、気持ちはわかるが、ここは八雲を信じて任せてあげてはどうかな?』
「ありがとう、左近寺さん」
カウンターから、左近寺が収められている書架の方へ、ゆるゆると手を振る。
雪乃からの思わぬ依頼。
それが古書店の店主への依頼だったとしても、八雲は心踊った。
密やかな恋心は横に置いておくとしても、だ。
数少ない情報から彼女の心に響く一冊を探す。
それはまるで、曖昧で大雑把な宝の在処を示した地図を解読するようだ。
その道は困難でも、秘宝への期待に満ちた冒険に、探検家は胸を弾ませ進んでゆく。
「等身大の共感を求めるなら『恋は涙の後で』・・・・・・か。試練を乗り越えて結ばれる『さよならの果てに』はどうだろう」
陳列された本は見ずに、記憶の書架から一冊一冊丁寧に取り出しては、雪乃の可憐な姿と重ね合わせてみた。
初めて彼女を見た時の姿は、今でも目の奥に焼きついている。
桜のようにゆっくりと舞う雪の中で、白く透き通るほどに美しい・・・・・・ーー
「・・・・・・六花(りっか)だ!!」
ガタンと椅子を鳴らし勢いよく立ち上がると、迷わず書架のとある場所へ向かう。
指で並ぶ背表紙の波をなぞり、それは一冊の小説に触れると止まった。
『おい!どうした八雲!?』
『あの様子だと、見つかったようですね』
『羨ましいわ・・・・・・!』
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