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『六花の微熱』。
その純白の表紙には、淡い色彩で雪の結晶が描かれていた。
ひと欠片の儚く繊細な雪。
手のひらに乗せて美しい結晶を眺めていても、すぐに溶けて消えてしまう。
そんな儚い雪の結晶に愛した人の姿を重ねる、硝子工芸職人を志す若者。
北国から遠く離れた想い人の元へ、夜行列車で向かう場面が好きだった。
闇夜に包まれた車窓が月明かりに照らされると、六花・・・・・・雪の結晶が凍えた窓の外に浮かび上がる。
指先で触れると、その熱で溶けてゆき・・・・・・ーー。
「これを、『六花の微熱』を・・・・・・雪乃さんに薦めてみよう」
独り言のように呟いた八雲に、アンソニーが少し低いトーンで問う。
『お前。雪乃にもあの、大切に読みますカードだかの、長ったらしい説明をするのか?』
「え?」
一瞬、何のことだかさっぱりわからなかった。
そしてすぐに思い出した。
本を大事に扱って欲しい一心で作った、客へのルール。
「・・・・・・ああ、僕は馬鹿だな」
本は何のために書かれたのか。
読まれるため、だ。
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