15人が本棚に入れています
本棚に追加
宝物
「わあ・・・・・・!凄く綺麗な表紙・・・・・・。タイトルは少し大人びてて、何だか切ない感じがして・・・・・・」
二日後。
先ほどまで広がっていた夕焼けの赤い空が、藍色に染まりゆく黄昏時。
約束通り『クスノキ堂』を訪れた雪乃は、『六花の微熱』を渡されると瞳を輝かせた。
「ありがとうございます!ぜひ読ませてください!」
バッグの中から財布を取り出そうとした雪乃を、八雲は制した。
「あのですね、なんというか、雪乃さんのおかげで僕は大切なことを思い出したんです。だから、その本は僕からの贈り物・・・・・・ということに」
「えっ?」
「いや!深い意味は無いんですがっ!!その・・・・・・受け取ってください」
しどろもどろに伝える八雲を不思議そうに見つめる雪乃。
泳いでいた八雲の目とぱちりと合った瞬間に、花のような笑顔を浮かべる。
「私、大切に読みます・・・・・・!感想も聞いてくれますか?・・・・・・八雲、さん」
「あっ・・・・・・!もちろん!!」
とっぷりと日が暮れ、星が囁き出す頃。
三冊に散々冷やかされながら仕事を終え、店仕舞いを済ませると、いつものように奥のカウンターで読書の準備をする。
今日読む本は決まっている。
色褪せ所々擦れてしまった、二匹の蛇が描かれた銅色の表紙。
『おっ、久しぶりじゃねえか!その本!』
「ええ。僕の宝物です」
そっと頁を捲りながら、八雲は小さな声で囁いた。
「もしも君に魂が宿ったら・・・・・・思い出話を聴いてくれるかい?ミヒャエル・・・・・・ーー」
ー完ー
最初のコメントを投稿しよう!