宝物

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宝物

「わあ・・・・・・!凄く綺麗な表紙・・・・・・。タイトルは少し大人びてて、何だか切ない感じがして・・・・・・」 二日後。 先ほどまで広がっていた夕焼けの赤い空が、藍色に染まりゆく黄昏時。 約束通り『クスノキ堂』を訪れた雪乃は、『六花の微熱』を渡されると瞳を輝かせた。 「ありがとうございます!ぜひ読ませてください!」 バッグの中から財布を取り出そうとした雪乃を、八雲は制した。 「あのですね、なんというか、雪乃さんのおかげで僕は大切なことを思い出したんです。だから、その本は僕からの贈り物・・・・・・ということに」 「えっ?」 「いや!深い意味は無いんですがっ!!その・・・・・・受け取ってください」 しどろもどろに伝える八雲を不思議そうに見つめる雪乃。 泳いでいた八雲の目とぱちりと合った瞬間に、花のような笑顔を浮かべる。 「私、大切に読みます・・・・・・!感想も聞いてくれますか?・・・・・・八雲、さん」 「あっ・・・・・・!もちろん!!」 とっぷりと日が暮れ、星が囁き出す頃。 三冊に散々冷やかされながら仕事を終え、店仕舞いを済ませると、いつものように奥のカウンターで読書の準備をする。 今日読む本は決まっている。 色褪せ所々擦れてしまった、二匹の蛇が描かれた銅色の表紙。 『おっ、久しぶりじゃねえか!その本!』 「ええ。僕の宝物です」 そっと頁を捲りながら、八雲は小さな声で囁いた。 「もしも君に魂が宿ったら・・・・・・思い出話を聴いてくれるかい?ミヒャエル・・・・・・ーー」 ー完ー
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