古書店 クスノキ堂

2/3
前へ
/16ページ
次へ
春は桜、夏は青葉、秋は紅葉、冬は雪。 四季の移り変わりを余すことなく、肌で感じることの出来る、北のとある街。 この街を象徴する建造物は、時代を遠く遡り、明治の時代に建てられた煉瓦造りの館である。 赤茶色をした煉瓦の壁に浅緑の屋根。 白い化粧枠に嵌め込まれた、ひずみのある窓硝子。 アメリカ風ネオ・バロック様式の、西洋を感じる堂々とした佇まいで、今も変わることなくこの街を見守っていた。 赤煉瓦の館を横切る、通称『大学通り』を歩くこと十五分。 キャンパスまでの道のりを彩る見事な銀杏並木が出迎える。 通りを吹き抜ける風が枝を飾る葉を揺らし、緑の音色を奏でてゆく。 それは学生達のお喋りにも似て、通りを賑わせていた。 「ねえ、雪乃。『クスノキ堂』って古書店知ってる?」 「うん。たまに行くよ?」 「本当?そこの楠木八雲って店主がカッコイイんだけど、ちょっと変わってるって噂」 「変わってる?そうかなぁ」 「『本屋のくせに本を売りたがらない』・・・・・・って!」 時は夏。 銀杏の葉が若く青々と成長し、北の街に短くも色濃い季節の訪れを感じさせる頃。 密やかに聴こえてくる、古書店『クスノキ堂』の何とも可笑しな風評。 その真相とは。 はてさて、頁を捲ってみようじゃないか・・・・・・ーー
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加