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「アンソニー、残念でしたね」
臙脂色の表紙が、ぱたぱたと小さく開いては閉じをせわしなく繰り返す。
『その甘ったるい呼び名はよせと言っているだろうが!八雲、お前、俺らを売る気ねえだろ』
「そそそそんなことないですよ!?ただ、僕は・・・・・・」
八雲は店内をぐるりと眺める。
本に負担を掛けないよう配慮し、適度な隙間を空け綺麗に整頓された書架。
広く一般に販売されている小説や実用書などの古本から、重厚感のある辞典や学術書、収集家が欲しがる価値のついた珍しい古書まで、幅広く揃っている。
それらの古書を目を細め見つめながら、八雲はカウンター奥のパイプ椅子に静かに腰掛けた。
「この愛すべき本を・・・・・・君達を、大切にしてくれる人の元へ送り出したいだけなんだ」
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