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男はまた、ビデオカメラのほうへと歩き始めた。その左手にはタブレット端末があった。右手の指先で画面を操作しながら、そこに書かれているであろう文章を読み上げた。
「ひとつめの罪……それはネイル」
ネイル!?
思わず、鍵山えり奈は自分の指先に目をやった。カメラに映りやすいようにか、一本一本の指も付け根の部分が椅子に固定されている。その指先には、一昨日ネイルサロンで施してもらった、鮮やかなピンクのマーブルネイルに金色のストーンを散りばめた爪が見える。彼女は、いつも鮮やかな色のネイルを好んだ。
「彼女はニュースを扱うアナウンサーでありながら、いつも派手なネイルをしている。先日、殺人事件のニュースの中で、彼女はフリップボードを持って事件の時系列を説明した。それは、強盗に母子が殺されるという残酷なニュースだった。その真剣な顔つきとは対照的に、画面には被害者の名前を記したフリップボードの隣に派手なネイルが映っていた。これは、明らかに被害者を冒涜している」
男はガスマスクの顔を彼女に向けた。そのマスクの奥に隠された顔が、果たしてどんな表情をしているのかは計り知れない。だが彼女には、男が笑っているように思えた。この意味のわからない行為を、楽しんでいるかのように感じたのだ。
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