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ビデオカメラが撮っている映像は、インターネットでリアルタイム配信されていた。男の持っているタブレット端末には、その映像とともに現在の視聴者数も表示されている。視聴者の数は、どんどん増えていた。
男はカメラのレンズに向かって、その視聴者たちに語りかける。大きく手を広げ、映像を見ている人間たちを煽るかのように。
「鍵山えり奈は、殺された母子を冒涜した。これは許されない罪だ! 罪を犯した者には、罰を与えなければならない」
振り向いた男は、彼女の元へ向かって勢いよく歩いてくる。鍵山えり奈は固定された頭を小刻みに左右に振りながら、粘着テープの奥で何かを叫んでいる。
男は彼女の隣に立つと、耳元にガスマスクの顔を近づけてカメラに届かないような小さな声で囁いた。
「いつも可愛いだなんておだてられて、いい気になっているからこんな目に合うんだ」
一瞬、機械音に交じって聞こえた男の本当の声に、鍵山えり奈は聞き覚えがあるような気がした。
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