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「ルナッ!──」
静かだった庭でそこの邸の主の焦りにも似た怒鳴り声が聞こえていた。
「おや、これはこれは旦那様…一体どうされました、そんなに取り乱されて……」
庭先の花にジョウロで水を撒く執事のモーリスと、裏庭から姿を現してかち合ったグレイは辺りを見渡し微かにチッと舌を打った。
額には闇の主に相応しくない、汗がうっすら滲んでいる。
ますます感情も露な表情をされるようになったものだ……
モーリスはその主の顔を興味深げに眺めた。
「ルナがこっちに来なかったかっ」
「いいえ…」
目を閉じて首をしっかりと左右に振って見せるモーリスを確認してグレイはまた強く舌を打った。
「ルナ様が如何なされました?」
「……っ…余計な詮索はするなっ…知らんのならいい! 他を捜すっ」
「捜す?…何故捜されるので?」
「───…っ…」
背を向けたグレイは聞き返された言葉に眉尻を吊り上げてモーリスを振り返った。
「居なくなったから捜すっ! ただそれだけだっ」
「ですから何故捜されます? 旦那様なら契約を交したルナ様の居場所くらい捜されなくとも解る筈で御座いますが…」
「……っ…」
悠長に述べる仕草が気に食わない。グレイは語るモーリスの言葉を聞きながら次第に表情を険しく変えていく──
グレイは痺れを切らし声を張り上げた。
「そのルナが自分で俺が探れぬようにしているから捜せんのだっ! そこまで俺に言わせるなっ」
言った後にグレイは肩で息を吐いた。
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