162人が本棚に入れています
本棚に追加
・
「それはまた…」
モーリスは自棄になったグレイにホホッと笑って見せる。
「何がおかしいっ」
「いやいや…ルナ様も魔物としてのお力を上手く使われるように成られたとつい感心を……」
「──…っ…」
言ったモーリスにグレイは目尻を見開いた。
カッとした闇の主の怒りの感情がほんの一瞬黒い陰の渦を巻く。
「旦那様から身を隠せる迄に感情をコントロールされるとは……いやはや、驚きで御座います」
傍らで肩を怒らし黒い陰を背負ったままの主人を他所に、モーリスはさも楽しい笑みを浮かべてジョウロで水撒きを始めていた。
「しかし、何故ルナ様はお逃げに?」
「そんなことは知らんっ」
もう何を言っても怒り口調だ。モーリス尋ねながら水を撒く振りをし、グレイの表情を盗み見る。
グレイはモーリスに強く返しながらも少し焦りを見せていた。
「旦那様…また意地悪でもなされたので御座いましょう? だからルナ様にはお優しくしてくださいと…」
「──…っ…俺は優しくしてるっ…なのにルナは逃げたっ…ならどうすればいいっ!?」
「──……」
珍しく堂々と取り乱した姿でグレイはモーリスに返す。だがその姿は何故か魔物にも関わらず神にすがる迷い人のようでもあった……。
最初のコメントを投稿しよう!