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植え込みに潜んでいたお陰で髪に葉っぱが絡んでいる。それを払い落とすルナをモーリスはじっと見つめた。
「ルナ様……」
小さく何かを言い掛けたモーリスにではなく、邸の表の庭から現れた男に顔を向けてルナは葉っぱを払う手を止めた。
「ここの薔薇は生き生きとしているね。さすがモーリス」
行き届いた手入れを褒めたのだろうか。その男はモーリスに声を掛けながら手袋を片方だけ脱ぎ、ルナの手を取った。
「ルナ様、こんにちわ。相変わらずお可愛くいらっしゃる」
社交辞令に微塵も嫌味を感じさせない。
男はそつなくルナの手の甲に軽くキスをしてシルクハットの鍔から笑みを覗かせた。
「これはこれは、城からはほとんど出て来ないレオンが珍しく何をしに?」
モーリスは手にしていたジョウロの動きを止めて尋ねる。レオンはハットを浮かせて焼きたてのような明るいレモンケーキの色をした髪をふわりと手櫛で流してルナに意味深に微笑み掛けていた。
そして腰を折ってルナを覗き込んだ。
「グレイ様がどんな新婚生活を送って居るか皆、興味津々でね。城では毎日話題に上がる程だ」
ニコリと笑ったレオンの距離が近い。ルナは思わず身を引いた。
吸血種族と言えどグレイとはまた違った色香をレオンは漂わせている。
レオンは間近で覗いた自分を前にしてほんのりと頬を染めたルナをクスリと笑った。
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