黒い猫のはなし

1/1
前へ
/37ページ
次へ

黒い猫のはなし

黒い猫は、いつも気まぐれ。 近寄ったり、離れたり。 くるりと丸い目、小さな手。 いつしか自分の元に もっとずっと、いてくれることを願って。 「最近ね。よく、黒い猫に会うんだ」 「黒い猫?」 「そう。俺の家に、会いにきてくれるの」 「たまたま弘の家の前を通りかかっただけじゃなくて?」 「最初はそう思ってたんだけど。最近は、俺の顔を見て、近寄ってきてくれる」 「へぇ。かわいいな」 「うん、かわいい。」 「猫って、警戒心が強いんだと思ってた。犬は人懐こいイメージだけど」 「そう!そうなの。最初はすごく疑り深い目で俺のこと見ててね…」 「疑り深いって…本当に人間みたいだな。 弘は人あたり…猫あたり?良さそうなのに」 「その猫ちゃんは、最初に見た時は鋭い目つきをしてたんだけど…最近すこーしだけ、目が丸くなった気がする」 「弘の好きな…なんだ…"猫目"?」 「そう。それそれ。 それで、ちょっとずつ近づいてくれるようになって。身体も、触らせてくれるの」 「すっかり仲良しじゃないか」 「うーん。そうなんだけど。そうでもないというか」 「…?」 「もっとこう、ゴローンと転がって。お腹を見せてくれるくらい、甘えてくれないかなぁと思って」 「…」 「懐いてくれたと思って思いきり抱きしめようとするんだけど、そうすると、逃げられちゃう」 「…」 「それでやっぱり鋭い目つきで、俺のこと睨むの」 「…弘の愛情が重すぎるんじゃないか」 「えぇっ。そう…思う?」 「弘のことは、気にはなってるんだろうけど」 「そう…かな」 「気になってはいるけど、本当に信じていいのか、本当に体を預けて良いのか。分からなくて、戸惑ってるのかもしれない」 「今まで沢山の猫に会ってきたけど、あんな猫ちゃん初めてだから」 「もう少しだけ。その子が甘えてくれるまで、待ってみたら」 「待てない」 「…」 「…待ちます」 「…意外と、期待してたりしてな」 「どういうこと?」 「素っ気ないふりをして見せて。でも本当は、”ここに来れば弘が優しくしてくれる"って、分かってるのかもしれない」 「…俺が待ってるって、分かってるかな」 「分かってなかったら…来ないんじゃないか」 「…そっか。そうかも。ふふふ」 「…何か…嬉しそうだな」 「まこは何でも知ってるなぁって。勉強になるなぁ、って思って」 「勉強って…俺は人間だから、参考にならないだろ」 「うん…そうだね。そうだった」 黒い猫は、いつも気まぐれ。 近寄ったり、離れたり。 くるりと丸い目、小さな手。 いつしか自分の元に もっとずっと、いてくれることを願って。 おわり
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加