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黒い猫のはなし
黒い猫は、いつも気まぐれ。
近寄ったり、離れたり。
くるりと丸い目、小さな手。
いつしか自分の元に
もっとずっと、いてくれることを願って。
「最近ね。よく、黒い猫に会うんだ」
「黒い猫?」
「そう。俺の家に、会いにきてくれるの」
「たまたま弘の家の前を通りかかっただけじゃなくて?」
「最初はそう思ってたんだけど。最近は、俺の顔を見て、近寄ってきてくれる」
「へぇ。かわいいな」
「うん、かわいい。」
「猫って、警戒心が強いんだと思ってた。犬は人懐こいイメージだけど」
「そう!そうなの。最初はすごく疑り深い目で俺のこと見ててね…」
「疑り深いって…本当に人間みたいだな。
弘は人あたり…猫あたり?良さそうなのに」
「その猫ちゃんは、最初に見た時は鋭い目つきをしてたんだけど…最近すこーしだけ、目が丸くなった気がする」
「弘の好きな…なんだ…"猫目"?」
「そう。それそれ。
それで、ちょっとずつ近づいてくれるようになって。身体も、触らせてくれるの」
「すっかり仲良しじゃないか」
「うーん。そうなんだけど。そうでもないというか」
「…?」
「もっとこう、ゴローンと転がって。お腹を見せてくれるくらい、甘えてくれないかなぁと思って」
「…」
「懐いてくれたと思って思いきり抱きしめようとするんだけど、そうすると、逃げられちゃう」
「…」
「それでやっぱり鋭い目つきで、俺のこと睨むの」
「…弘の愛情が重すぎるんじゃないか」
「えぇっ。そう…思う?」
「弘のことは、気にはなってるんだろうけど」
「そう…かな」
「気になってはいるけど、本当に信じていいのか、本当に体を預けて良いのか。分からなくて、戸惑ってるのかもしれない」
「今まで沢山の猫に会ってきたけど、あんな猫ちゃん初めてだから」
「もう少しだけ。その子が甘えてくれるまで、待ってみたら」
「待てない」
「…」
「…待ちます」
「…意外と、期待してたりしてな」
「どういうこと?」
「素っ気ないふりをして見せて。でも本当は、”ここに来れば弘が優しくしてくれる"って、分かってるのかもしれない」
「…俺が待ってるって、分かってるかな」
「分かってなかったら…来ないんじゃないか」
「…そっか。そうかも。ふふふ」
「…何か…嬉しそうだな」
「まこは何でも知ってるなぁって。勉強になるなぁ、って思って」
「勉強って…俺は人間だから、参考にならないだろ」
「うん…そうだね。そうだった」
黒い猫は、いつも気まぐれ。
近寄ったり、離れたり。
くるりと丸い目、小さな手。
いつしか自分の元に
もっとずっと、いてくれることを願って。
おわり
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