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「…良い。そのために、来たから」
小さな声で、振り絞るように呟いた。
弘は、寝癖のついた真の黒い髪を指の背で優しく整えた。
頭を委ねるように差し出されると、思わず目尻が緩む。
「仕事、忙しかった?」
「プロジェクトが、大詰めに入ってて。」
「寝不足?」
「…少し。」
「疲れてるのに、来てくれたんだ。」
真は頭に優しい体温を感じながら、小さく頷いた。
頭を触られる心地よさと部屋の温度が重なって、
また少しずつ、瞼が重くなってくる。
「…約束、したから。」
「"来月も来てね"、って、言ったこと?」
真はまた小さく、頷いた。
弘は目を細めながら、少しずつ身体を傾けてくる真を
胸の中に納めた。
「嬉しい。覚えててくれた」
真からの応答はない。
黒く長い睫を伏せて、静かに呼吸している。
弘は胸の中で丸くなる黒猫をひとしきり固く抱きしめると、
耳元に唇を寄せた。
「まこ…寝ちゃだめだよ…するんでしょう?」
そう呟いて、意識を手放しかけた真の唇に舌を滑り込ませた。
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