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「…怪しいなって、思ってるでしょ」
弘の一言は、間違っていない。
真はいつにも増して鋭い"猫目"で
弘の右手を睨みつけた。
あの右手に持つボトルは見覚えがある。
弘がキャリーケースから取り出した、
半透明の液体の入ったボトル。
初めてこの部屋を訪れた時に
弘がうっかり液体を大量に溢れさせた、
あのボトルだ。
「大丈夫。マッサージ、するだけだよ」
弘の"大丈夫"は信用ならない。
「…出しすぎるなよ」
弘は元気よく返事をして、
バスルームに向かって行った。
あの液体は危険だ。
あの感触は、危険だ。
*
「うつ伏せになって。」
シャワーを浴びた後、バスローブ姿で戻ってきた
真はベッドの上にうつ伏せになった。
大きなバスタオルを何枚か重ねて運ぶ弘の姿が
目の端に映る。
弘は手際良く準備を済ませるとベッドに乗り、
真の身体を膝立ちで跨いだ。
体重をかけすぎないよう、
少し身体を浮かせてくれているのが分かる。
真の首の後ろに両手の親指を乗せて、
ゆっくりと圧をかけられる。
「相当凝ってるね。かちかち。」
「…パソコンの使いすぎ」
「お仕事、もりもり頑張ってるから。」
「…みんな、頑張ってるだろ」
弘はそうだねと、小さく呟いた。
そのまま背骨に沿って親指が
少しずつ腰の方へ移動していく。
程よい圧迫感が心地良い。
「痛くない?」
「大丈夫」
「そう、ならよかった。」
足先まで一通り揉みほぐされたところで
弘は一旦ベッドを降りた。
準備していた大きなバスタオルとボトルを
手に取る。
「バスローブ、脱いで。上だけで良いよ。」
言われた通りバスローブから腕を引き抜き、
上半身を露わにしてまた、うつ伏せに寝転んだ。
弘は真の上に跨ると、ボトルの蓋をくるくると回し
液体を手のひらに垂らした。
両手で液体をこねるような音が、
真の背中をざわつかせた。
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