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「脚のマッサージしたい。」
「良い…よ」
「良いの!」
「違うって、しなくて良いってこと」
「なんでー。」
これ以上は危険だ。
掴まれた足を少しずつ自分の方へ引き寄せてることに
気付かれるとまた、
弘に元の位置まで引き戻されていく。
しばらくこの攻防が続いた後、真は体の力を抜き、項垂れた。
「反応しちゃうから?」
図星だった。
真がぐっと喉を鳴らしたのを、
弘は見逃さなかった。
「俺の見てよ。こんなんだよ。」
真は首を捻り、目を逸らした。
最初からこうなることは分かっていた。
抵抗しても、結局は弘のペースに乗せられる。
徐々に押し迫る期待に少なからず胸を高鳴らせる自分がいる。
結末はもう見えたようなもので、
それが少しずつ身体の熱を上げていることにも
気づいている。
「今日は記念日なのに」
弘はそう小さく呟きながら、
真のくるぶしを軽くつねった。
「記念日とかそういうの…苦手なんだ」
「ガーン」
「違う、その、祝わなきゃいけないって気持ちになるのがしんどくて…」
「ガガーン」
「だから、そうじゃなくて…」
逸らしていた視線を弘の方に向けた。
弘の胸を手で軽く押すと、
男はベッドの上に仰向けに倒れた。
起き上がろうとする前に身体を押さえつけ、唇を塞いだ。
妙に滑らかな唇の感触を味わうよりも、
液体で濡れた胸が弘のシャツに張り付く感触の方が気になった。
少し、心地が悪い。
不意に唇を塞がれた弘は、目を丸くしていた。
「感謝は…してるんだ。ごめん…なんて言ったら良いか…」
戸惑う真の頬に手を添えて目尻を親指でなぞると、
鋭く尖った"猫目"が、するするとほどけていく。
この不器用で、優しい黒猫は
言葉にならない思いを何とかして伝えようとしてくる。
それが、弘にはたまらなく愛おしかった。
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