記念日

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「ひろ…し…」 小さく抵抗する真の声は空に放っておかれた。 体勢はいつの間にか逆転し、 真の胸を滑らかな唇が這い、舌で弄ばれる。 刺激を与えられる度に、横隔膜がびくりと揺れる。 少し体重をかけるように乗りかかられると 張り詰めた欲望が腰に当たる。 期待と不安に睫毛を震わせると、顔を上げた弘と目が合った。 捉えた獲物を酔わせるような潤んだ瞳をこちらに向けられると、 目を逸らさないわけにはいかない。 「まこ」 名前を呼ぶ声はすぐに右耳に吸い込まれた。 耳たぶに唇を当てられると、肩がすくむ。 「……弘…」 真は耳に触れられることを避ける。 強すぎる刺激に抵抗しようとすることを、 弘は知っていた。 執拗に舌で刺激しながら、ほどけそうになるバスローブのリボンを 引いて、腰元に手を伸ばして来る。 「ひ…ろし…」 「嫌なら嫌って、言って良いよ。」 「そう言って、いつも…やめないじゃないか…」 弘は少し笑いながら熱を持ち始めた真の腰元に指を這わせた。 真の腰が、少し反れる。 耳元で名前を呼ぶ弘の声に、身体が震える。 そのこそばゆさから逃れようと頭を横に振ると、 腰元を強く押さえられた。 「ぁっ……!」 思わず漏れ出た声を、自分の手の甲で塞いだ。 弘は真の抵抗を見逃さなかった。 口元を抑えた真の手の甲を、手で引き離そうとする。 「声、聞きたい」 「い…やだ…」 「なんで?」 「は…ずかしい…」 「聞きたい、聞きたい」 「…嫌なら嫌だって言って良いって…言っただろ」 あ、くそぅ。 そう呟いて真の手の甲から手を離した弘は、 何故か嬉しそうに目を細めていた。
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