誰かの知らない、誰か

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ホテルの部屋に入ってきた弘は、長めの薄茶色の髪をオールバックにひっつめ、 細身のネイビーのスーツをすっきりと着こなした上にベージュのトレンチコートを羽織った姿で、真の前に現れた。 久々の再会に喜び抱きついてきた弘の胸元からは、 前とは違うマリン系の爽やかな香水の香りがした。 真の前に予約を入れていた客の好みなのかもしれない。 誰かのための、弘。 目の前に、薄い膜のようなものが見えた気がした。 「…前と全然違う。」 「見た目?かっこいい?」 「…”男娼”…って感じがする。」 「だって、”男娼”だもの。」 弘はにこにこと笑いながら、真の目尻を親指で優しく撫で上げた。 「3ヶ月も連絡くれないから、嫌われちゃったかと思った。」 「まだ1回しか会ってないから…嫌とかそういうの、分からないだろ。」 「分かるよぉ。1回であ、この人無理!だめ!っていうの、あるでしょ。」 「…確かに。」 言葉を遮るように、弘の舌が真の口の中に滑り込んできた。 急な圧迫感に上半身を軽く仰け反らせると、 腰元に弘の熱を感じた。 慌てて身体を離そうとするも、腰を掴んで、引き寄せられる。 煽るように腰に当てつけられたその熱に、真は首元にジワリと汗をかいた。 絡められた舌から漏れ出る滑りを帯びた音に、意識がぼうっとしてくる。 「…まこの猫目見ただけで、こんなだよ。」 「…まだ来たばっかりじゃないか…」 「3ヶ月分、たっぷりご奉仕させて頂きます。」 企むように笑う弘の瞳はゆらゆらと揺れ、 獲物を捕らえたかのように妖しく光っていた。
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