そんな日があっても

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「おはよう、まこ」 弘が、上機嫌に本を読んでいた。 真は目を見開いて、勢い良く起き上がった。 「弘…!…今…何時?」 「今ね、21時30分」 「ごめん、俺…30分も寝てた。」 「疲れてた?」 「ごめん…ほんとごめん…シャワー、浴びてくる。」 「まこ」 弘は慌ててベッドから降りようとする真の腕を掴み、引き戻した。 真はバランスを崩し、そのままベッドの上に倒れ込む。 「この時間はまこのものなんだから、まこの好きにして良いんだよ。」 落ち着いた声でそう話す弘の声に、真は眉をひそめた。 「でも、それじゃあ…"仕事"にならないだろ…」 「お客さんのしたいことをさせてあげるのも、俺の仕事。 お客さんが喜ぶことをするって意味じゃあ、同じでしょ。」 いつもと変わらない弘の甘くて優しい言葉は、 真を悩ませた。 弘は好きでこの仕事をしていると聞いているが、 一方で自分は弘の自由を、金で買っている。 時間を金で買ったなら、 弘に"仕事"をさせなくてはならない。 その為に、彼はここにいるのだ。 「…ごめん」 寝乱れた黒髪を項垂れて、 真は視線を床に向けた。
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