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「会社の入館証?その、首から下げてるの」
声に反応するように、黒い頭がゆっくりと上がる。
しわになったシャツのポケットから覗く小さなカードケースを指差され、
真は小さく頷いた。
うつ伏せで寝ていたせいか、ケースについた青いストラップが捩れて複雑に絡まっている。
「見せて」
ストラップの捩れを丁寧に正して、
ケースごと弘に手渡した。
まっすぐとカメラの先を見据えた
鋭く、懐疑的な黒い瞳。
8年前に撮られたその写真は、
度重なる摩擦で少し色褪せていた。
「写真、若いね。可愛い。」
「入社した時に撮ったやつ。それ以来、更新してなくて。」
「この時はあんまり、猫目じゃないね。…そうか…これは後天的なものだったのか…」
真は天井を見上げて何やらぶつぶつと呟く弘を
訝しげに見つめた。
「…あんまり変わらないって、言われるけど。」
「持って帰りたい」
「だめ」
弘が自分の胸ポケットに入館証を入れようとしたのを見て、
慌ててそれを取り返した。
拍子で、互いの顔が近づく。
真は、反射的に少し身体を引いた。
「…ほんとに良いんだよ、しなくても」
真の顔色を伺うように、弘は顔を傾けた。
ほの暗いベッドサイドの明かりが、弘の薄茶色の瞳を琥珀色に見せる。
透き通るようなその瞳をまっすぐに向けられると、
目を逸らさずにはいられなかった。
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