古書は巡る

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店の奥にあるマボガニー製のクラシックなカウンター机の前で禿げ頭に白い顎髭を蓄えた頑固そうな老人に軽やかな声の主が小言を言っていた。彼女は老人の孫娘で、名前は……。 「恵那(えな)、固い事を言うな!!、ある時に買わんと一生巡り会わん出会いってものがあるんじゃ!!」 「一期一会だって言うんでしょ!!、その結果がコレよ!!」 恵那が指差した先に広がる、ぎっしりと詰まった本棚が映し出されて、様々な本の背表紙が圧倒的な風格を漂わせ空間を支配しているのがわかる。 「おじいちゃんの趣味をとやかく言うつもりはないわ、でもね在庫を抱えて余裕綽々って訳でもないのよ!!」 肩を怒らせて言葉を吐く恵那に"おじいちゃん"こと条太郎(じょうたろう)は、面倒くさそうに応えていた。 「恵那、お前さんのネットなんちゃらで結構儲かってないか?」 「あぁ、ネット通販やネットオークションじゃあ儲けなんて知れてるわよ、経費を差し引いたら赤字なんて珍しくないんだから……」 孫娘がボヤくのも無理からぬ訳があった、21世紀に入って出版業界にも電子化の波は押し寄せていた。それに伴って紙の本の出版数も減っていき、その事は古書にも及んでいた。 もっとも、有閑堂で扱う書籍は古くは、紀元前エジプトのパピルス文書から始まって古今東西の珍品、迷品、絶品と呼ばれる奇書、珍書がかなり含まれていた。
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