古書は巡る

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「恵那、お前さんも書籍鑑定士なら、ワシの言っとる意味が分かるはずじゃがな……」 そう、恵那にも痛い程分かる、いや分かっていた。電子化された書籍にはない、人から人へと渡ってきた書籍の持つ時を積み重ねた独特の重さを感じていた。 電子化されたモノにはない実在感のある紙の書籍。もっとも、西洋では、羊や豚の革で作られた物もある。そして、和紙に関していえば優に1000年は持つ耐久性を有していた。 だが、何せ紙の書籍は、かさ張るのが難点だった。この店の在庫も電子化すればワンフロアもいらない、パソコン1台で事足りるのだ。 しかし、ソレをしてしまえば、この店、有閑堂の存在意義がなくなってしまうからだ。文化の継承という意味でソレはマズイ!、そして何より常連客に対して申し訳がない、もっと言うと恵那や条太郎の生活にも影響が及ぶ。 もっとも、恵那は特殊国家公務員の肩書きも持っている。主な勤務先は国立国会図書館、時たま、国立博物館や国立公文書館に古文書関係で出張する事もあった。 ただ、本当に特殊な仕事の為、基本給は大卒初任給並みに抑えられている。別に報酬制度があり、成功報酬の3割が支払われる仕組みだ。確かにデカイ仕事なら億単位の報酬があるが、世の中そんなに甘くない、大概、手元には100万までの報酬が税金を差し引かれ銀行口座に振り込まれるのが常だった。
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