三、マリッジブルーと呼ばないほうが。

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「先ほどの和葉さまですが」 重い沈黙の後、辰崎さんが口を開く。 本当は講義なんでどうでもいい。大学の講義なんて一度受けないぐらいで単位が取れないわけはない。 けれど、不安そうな和葉さんの傍に居られるのは、一時だけだ。 「マリッジブルーかもしれませんから刺激してはいけないかと思いますよ」 「マリッジブルー?」 運転している辰崎さんが、ミラー越しに俺を見て神妙に頷く。 「同性婚なんて、竜宮家が議員に支援を要請してようやくこの市だけ実験的に認められた、まだ新しい制度。きっと不安は多いと思いますよ」 「だが同性婚を認めた議員は、支援も人気も上がって俺に感謝していたぞ。それに今どき同性の愛情を差別する頭の固い馬鹿はいない。そして、俺はそんな馬鹿から和葉さんを守れる自信と権力と、愛情がある。不安を取り除けないのは、俺の愛情不足だ」 「マリッジブルーとはそんな簡単なものではありませんよ」 ふっと小馬鹿にされたようなため息に、俺もついムキになってしまう。 「俺はもう、ただ胸を焦がすだけの子供ではない。あの人の不安を取り除けないなら、竜宮家の名を名乗る価値もない。絶対に原因を突き止めて、安心させてみせる」 まずはこの筋肉の維持だ。 ジムに通ったし、高校時代は三年間ボクシング部で鍛えたし腹筋だって八個に割れている。 なるべく筋肉を維持できる食べ物の料理本を手あたり次第買っておいた。 が、和葉さんに見つかっては意味がない。 男は努力を見せてはいけない。
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