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。僕は、しばらくそうして時間を過ごし、そして自分の寝台席へと階段を上った。天井を向いて眼を閉じる。これからの期待と不安で複雑な気分になる。「けんたんは、名古屋か。なべっちや、いさお君は、大阪か。ほとんどの奴らが大阪とか関西やもんな。あいつらが嫌いな訳やない。でも恰好つけてる訳ないけど、あいつらとは、違うとこへ行きたいと思ったんや。俺は東京なんやな。あいつらとは違うんや。あっこれが、恰好つけか。」僕はクスッと笑った。寝台車の揺れは慣れれば大丈夫なんだろうけど、僕には眠ろうとしている疲れた男を揺り起こしているようなものに思えた。静寂の中時々聞こえる誰かの咳の音。僕は朝まで眠れず、ずっと今までのことを思い出していた。「これからは、全部ひとりでやっていかんとあかんねんなあ。料理もできんし。クラブの先輩とかは、なんとかなるっていうてたけど。ほんまかいな。まあ、やるしかないよな。」こう考えてみると、一人の若者が故郷捨てて上京するドラマのような恰好ええシーンを想像してたけど、なんと情けない田舎者の上京シーンたつたのである。まあ、そんなこんなで、時間が過ぎていき僕は一睡もできず、列車の外がうっすらと明るくなってきた時にそっと階段を下り通路の椅子に腰かけ出発した時のように外を眺めていた。景色は薄明かりの中で、確かに田舎とは違う都会の景色に変わりつつあり、しばらくしてお母ちゃんも起きてきた。
「あんた、ずつとここにおったんかん。寝てないんかん。」「いや、ずっとやないよ。さっき上からおりてきたんや。もうすぐ着くさか顔洗ろてくるわ」そう言って僕は洗面所へ向かった。しばらくして車内に、もうすぐ終点の東京に着くとアナウンスが流れた。僕ら親子は黙って通路の椅子に腰かけ外を見つめ到着を待った。列車は、東京駅のホームにゆっくりと入っていき僕たちは、3月末といえどまだ肌寒い東京駅のホームに降り立った。さあ、これから東京生活の始まりである。
つづく。
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