2.『焦燥』~矢尾政宗の場合~

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振り返った俺たちを、二人の女子が見ていた。 「莉紗(りさ)千花(ちか)ちゃん。どうしたの?」 隣の蓮が訊ねる。 水原(みずはら) 莉紗(りさ)と、渡辺(わたなべ)千花(ちか)。二人とも、同じく経済学部3年。莉紗は茶髪ショートボブで肩を見せるコーディネートなのに対し、千花は黒髪ロングで膝丈のスカート。見た目は対照的な二人だが、とても仲がいい。莉紗は俺に視線をやる。 「千花が政宗くんに用事があるって」 「あぁ」 俺はその用事を思い出し、かばんに仕舞ってあったタッパーを千花に渡す。 「美味かった。サンキュ」 「うん」 「え!? 二人いつの間にそんな仲に!?」 悠斗がオーバーに反応してくる。莉紗が悠斗にチョップを繰り出したのを見て、俺は口を挟むだけにする。 「俺、一人暮らしだから、叔母さんがときどき飯作ってくれんの。それを運んでるのが、千花」 俺の親父と千花の母さんは、兄妹なのだ。つまり、俺と千花は従兄妹。昔は家も近く、よく一緒に遊んでいたが、親父の転勤をきっかけにほとんど会わなくなっていた。 「へぇ。っていうか、従兄妹なんだから、政宗、一人暮らしするんじゃなくて、千花ちゃんの家に住まわせてもらったらよかったんじゃね?」 悠斗が遠慮なく言う。他意も悪意もないんだろうけど、俺は一瞬どきりとした。
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