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「あれ?莉紗?」
声をかけられて、私はびくりと肩を震わせる。悠斗と妊婦さんが私を見ていた。また上手く息ができなくなる。でもそんな私を知らずに、悠斗が駆け寄ってきた。
「こんなとこで会うなんてな。でも、そっか。ここ、お前ん家近いもんな」
「う、うん」
頷くと、妊婦さんが悠斗の隣に立っていた。
「悠斗。ちゃんと紹介して」
少し期待しているような女性の声。悠斗は面倒臭そうな、恥ずかしそうな顔をしながら答えた。
「水原莉紗さん。大学の同期で……俺の彼女」
「彼女!」
すると妊婦さんは、目を輝かせて私の手を取った。
「初めまして!悠斗の姉の亜希です!悠斗がいつもお世話になっています!」
「……お姉さん?」
「はい!」
亜希さんの勢いに少し怯んでしまう。でも私の頭の中は、違う疑問が占めていた。――さっきの悠斗の視線は、お姉さんに向けるような視線じゃなかった。私を置いてきぼりに亜希さんは饒舌に語る。
「悠斗にこんな可愛い彼女がいたなんて。もう、紹介してよー」
「亜希姉に紹介とか絶対やだ」
「そうだ!莉紗ちゃん、この後時間ある?うちでご飯でもどう?私の家、この近くなの」
「え、えっと……」
混乱して答えられないでいると、間に悠斗が割って入る。
「亜希姉、止めろ。莉紗困ってんだろ?」
「えぇ?だって、もっとお話したいー」
「わがまま言うな」
亜希さんはぶーっと顔を膨らませた。
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