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スーパーから5分歩けば、亜希さんのマンションに着いた。亜希さんは上がっていくよう勧めてくれたけど、断った。どうしても、悠斗と話がしたかったから。別れ際、亜希さんは『またね』と私に手を振った。その笑顔にどこかもやもやした。
「悠斗」
マンションを出て呼びかけると、前を歩いていた悠斗が振り返る。いつも通りの悠斗だ。明るく元気で、お調子者のいつもの悠斗。……でも、あの時の悠斗の表情が頭から離れない。
「悠斗の1番は、亜希さん?」
ストレートに訊くと、悠斗は目を丸くして少し身体を強張らせた。私は強く拳を固める。
――悠斗、違うって言って。嘘でもいいから、違うって言って。握る拳が小さく震える。怖い。でも、知らないフリもできない。
やがて、悠斗の肩からすっと力が抜けて、小さく微笑んだ。
「…………うん」
その瞬間、全身に水を浴びたようだった。身体中が一気に冷えていく。
「なんで?どうして!?」
悠斗に好きな人がいるのは分かっていた。でも、お姉さんだなんて思ってもみなかった。しかも亜希さんは結婚していて、お腹に赤ちゃんまでいる。それなのにどうして、悠斗は未だに亜希さんを好きなのか、忘れられないのか……私が1番になれないのか。考える前に、言葉がこぼれる。
「なんで亜希さんなの!?姉弟なのに!!」
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