1.『捨てたい感情』~近藤悠斗の場合~

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***** 「ただいまー」 4月。桜ももう散り、青い葉が茂る頃。玄関で靴を脱ぎ、リビングのドアを開ける。いい匂いがする。今日は生姜焼きか。 「おかえり、悠斗」 「おかえりー」 母さんの声と、もう一人予想してなかった声がして、俺は固まった。 「……亜希姉、来てたんだ」 「うん」 ソファーに腰かけた亜希姉は、ひらひらと手を振る。 亜希姉は、6歳年上の俺の姉。でも、血は繋がってない。俺が小2のとき、母さんが再婚した。再婚相手である父さんの連れ子が、亜希姉だ。――初めて会ったその日のことは、今でもはっきり覚えてる。 「なんで亜希姉いるの?」 「みんなにお知らせがあって」 「お知らせ?」 「悠斗」 亜希姉は自分の隣をポンポンと叩き、『座って』と目で訴えてくる。俺は大人しく亜希姉の隣に腰かけた。亜希姉はお腹の上に手を重ねる。左手薬指の指輪が光った。 「赤ちゃんができました」 「――え?」 「12月には私、ママになります」 照れくさそうに、でも亜希姉は嬉しそうに俺を見る。そして俺は、びっくりし過ぎて息が止まった。 「……………………マジか」 「マジマジ」 俺と同じノリで亜希姉は頷く。俺は口角を持ち上げ、微笑んだ。 「おめでとう。亜希姉」 「ありがとう」 亜希姉は嬉しそうに歯を見せて笑った。
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