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「名前どうしよう?」
「いや、男か女かも分かってないのに考えんの?」
俺が苦笑すると、亜希姉は唇を尖らせた。
「だって、候補はいっぱいあった方がいいと思わない?」
そう言って、亜希姉は俺の袖を引き、小首を傾げる。
「いい名前ひらめいたら教えてね。悠斗」
俺は一瞬目を瞬かせて、亜希姉の髪をぐしゃりと撫でた。
「うわっ!ちょっと!」
「思いついたらな」
俺は腰を上げ、自分の部屋に入ってドアを閉める。ドアに背中を預け、ずりずりとその場にへたり込んだ。――甘えたように言う、あの人の顔が苦手だ。あの人は甘えれば俺が言うことを聞くと思ってる節がある。実際、それで何度も言うことを聞かされてきたが。
初めて会った時は、それはそれは大人に見えたのに、実際は結構子どもっぽい。だけど、面倒見はいい。俺が困った時は助けてくれる。そして、自分が困った時も人に助けを求めることができる人だ。亜希姉の周りは、それを面倒だと思わない人が多かった。
その最たる人が、宗介さんだ。
宗介さんは、亜希姉の旦那さん。困った人をほっとけないお人よし。でも、穏やかで優しくて、安心感を与えるような人。
亜希姉と宗介さんは、大学生の同期でその頃から付き合ってた。俺は中学生、亜希姉は20歳。二人はそれは仲睦まじく、大きな波乱もなく、2年前に結婚。――俺は、玉砕するタイミングさえ失ってしまった。
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