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前日朝
ヨーコは怒っていた。
かのカスミは、あたしをK.Y.呼ばわりした挙句、ダンス部を辞めた。
ヨーコはダンスひと筋、懸命に踊りつづけていた。
カスミの腹の内がわからない。飛び散る汗にもやもやとした気持ちを籠めて、ヨーコはひとり体育館で舞いつづけた。
明日は文化祭本番、カスミが辞めたのは2週間前のことである。
カスミとはお砂場からの盟友であった。
交換日記もサイン帳も、年賀状のやり取りから、果ては英語の勉強を兼ねて文通もした。
シロツメクサでかんむりを作って交換こして、お姫さまごっこをし、同じ布団でクスクス笑いながら寝たこともある。
言葉など交わさずとも、わかり合えていると思っていた。
「なんなのよ!!」
ヨーコは動きを止めた。
朝日の差す体育館に自分の声が響き渡る。
わけがわからない。
雀のさえずりさえ鬱陶しい。
今日はもう、気分がノらない。
更衣室のシャワーで朝のどろどろを洗い流し、登校してきた生徒たちに紛れる。
「やっほー」
「おっはよー」
「早いね、朝練?」
「おうともさ!本番近いからね!!」
目の端にちらりとカスミの姿が映った。
ざわつく心の声をかき消そうとして大声になる。
聞こえたかな?
「ステージ楽しみにしてるねー」
「クラスの方も顔出してよね!ヨーコいないとつまんなーい」
「へいへいほー」
そう嘯きながら、カスミとの距離を保ちつつ靴を履き替える。
午前中の授業は寝るかもしれない。
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