4時限目

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4時限目

 コツン、と軽い音が頭蓋骨に響いた。  起き上がると教室中がクスクス笑っている。 「篠宮さん、次詠んで」  笑い声のする中で、ちらりとカスミを見る。彼女は教科書から目を離さない。ぴくりともせず、背筋をぴんとしている。  カスミの踊り、好きなのになあ。 「……篠宮さん」 「あ、はい、寝てました。どこですか?」  男子が爆笑する。そろそろ怒られるかな。 「この、77番です」  なんだこれ?ああ、今現代文か。はて、いつの間に教科書を出したのだろう。  ノートにミミズがうねっている。  お腹すいたなあ。 「えーと、瀬をはやみ?岩にせかるる?せかるる?滝川の?」  先生が咳払いする。 「瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の  われても末に あはむとぞ思ふ」  すらすらと詠む王子先生、通称ワンちゃん。 「僕ねえ、この歌けっこう好きなんですよ。はい、篠宮さん、あと5分頑張って起きていてくださいね」 「わぁい」  とぼけた調子で返事をする。  ワンちゃんがなにか解説をしているけれども、あたしの頭はいま野川を石ころのように転がっていた。
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