本屋さん一肌脱ぐ

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 読子にかかっている呪いは「人魚書店から出られない」と言うモノだが、厳密には敷地内なら外に出ることが可能である。そして文化祭中はこの古本市のおかげで大学も一時的な敷地内とみなされていた。 「馬子にも衣装というか、珍獣というか……いつもと真逆なくらい注目の的じゃないか」  大学内を移動中、くれはが言うように読子は注目の的であった。  漫画雑誌のエンブレムを模した髪が前立てのようになっていたのもあるが、その奇抜なデコ盛りで目を引いた人々の目を離さないのは読子の美貌によるモノだった。  くれはも読子の素材がいいのは昔から認めているのだが、それにしても普段はいくら地味を装っていると言ってもまるでモテないのは不思議だなと常々思う次第である。  人魚書店から大学内のブースに移動するまでの数百メートルのあいだに読子は三人の男性に話しかけられていたが、それらの誘いを我慢しながら読子は一直線にブースに向かう。 「みんなお疲れさま。調子はどう?」  ブースである教室に入った読子は後輩達に声をかけたのだが、彼らのテンションは低かった。  聞くところ、古本市自体はそこそこの集客なのだが、この日のために用意した漫研合同誌がさっぱり売れていないそうだ。  毎年完売するようなモノでは無いとは言え、それにしても一冊も売れないのは読子も経験が無い。 「その様子だと手にとってもらえなかった訳でもなさそうね」     
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