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辞められない理由を百並べるよりも、辞めてできることを一つでも見つけられた方がずっと幸福なのだということを、それまで知らなかったのだ。 自分らしく生きること。 一番大切なものだったのだと思う。少なくとも私には。 苦しみも、憎しみも、もがいて足掻くことも。全部を、いつの間にか我慢に変えてしまうのは容易いこと。辛くても、それは安易にできる。けれど、踏み出す勇気は意外と難しかった。 きっかけ。必要なのはきっけなのだ。私はそれが、病気だった。もう体が動かない。心が壊れてしまう。そこまで来てやっと一歩踏み出せて、振り返る勇気が出るのに5年以上も掛かった。 この数年、本はたくさん読んだ。恋愛モノとサスペンスとミステリー。つり橋の上の恋、という表現もあるように、恐怖と恋のドキドキは似ているのだ。スリルと、高揚。頭を使う推理と、理性の利かない恋心。私の心を掴んで離さないのはそういうものばかりだった。あとは、文章のなにに重きを置いているのか、と。 もう書くことから離れているのだけれど、そもそも私が物語めいたものを書き始めてからずっと、私は物語の展開よりも文章の書き方を見るのが好きだった。 主語と述語、倒置法や形容詞の多様性。言葉だとそんな在り来たりな説明になってしまうが、読んで味わえる文章。それを書く作家さんに出逢ってしまってから、私は本に囚われてしまったのだと思う。書かなくなった今でさえ読むことが止められないのは、好きだからだ。 私の人生を表すなら、小説と恋と仕事。人と接すること自体が好きで、けれど器用ではなく、幾度も出会いと別れを繰り返してきた。恋愛に限らず、人との関わりはいつだって突然に始まって、突然終わるものだ。それもこの小説を書いていた頃にも、もう幾度だって繰り返されていた。
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