気楽屋

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その日も半日で学校が終わった俺は、いつものように掘り出し物を探しているいると、僕がいる逆側の通路の方から元気のいい声がする。 「はい、お爺ちゃん、お茶菓子。 もう、また、いっぱい煙草吸って、お医者さんに怒られるよ。」 チラリと机の方を見ると、制服姿の女の子は山盛りに成った灰皿を空にして、机の上を拭き、お茶をいれていた。 彼女の制服は、僕が通っていた私立の男子校の真横にある、この辺りでは一番レベルの高い公立の制服で、僕には到底手が届かなかった学校の物だった。 おやつを済ませたお爺さんは、散歩に行くからと、その女の子に店番と掃除を頼み、サッサと店を出る。 すると、その子はいかにもと慣れた手付きでバンダナを髪に掛け、店の中の掃除を始めた。 何度か目が合う度に、彼女は頭を少し下げながらニッコリと笑う。 その日は、たいした収穫が無かったが、古い「舞姫」を取りだし、ホコリをたたいていた彼女に声をかけて支払いをすませた。  言っておくが、俺の読書量はたいして多くはない。 ただ好きな本は何度も何度も読み返すタイプ。 しかも、日焼けした古い本を開いた時の、あの琥珀色のにおいが大好きだから、ついつい古い本を探してしまう。 前の持ち主のメモとかがあると、ワクワクしてしまう。 「森鴎外、好きなの?」 「いいえ、そうゆう訳じゃない無いけど、沢山メモがあるから。」 「よく、見かける気がするけど?」 「そうですか? まぁ、学校が半日の日は大概来てるかな。」 「ふぅん、、、ありがとうございました。 また、よろしくお願い致します。 来週も来てね!」 と彼女は言い、しおりを本の後ろにはさんだ。 それが彼女との初めての会話。 
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