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〈泥棒は本棚にあった本を端から端までカバンに詰めた。
本達は大騒ぎ。だって、誰もさらわれたくはないからね。
本達はかしこいから、泥棒が自分達をどこかよそに売り飛ばすと知っているんだ。〉
〈「ボク達は、ここで本当の持ち主を待つんだ。後生だから、連れ去らないで〉」
〈シクシク泣く声や、怒鳴り声がカバンの中から聞こえてきた。それでも泥棒は気にしない。せっせと本を詰め込んだ〉
シクシクシク……
どこからか泣き声がする。
お店の隅の方から聞こえているみたい。
「ボク達を連れて行かないで。ここで新しい持ち主を待ってるのに」
「いいじゃないか。主なんて、自分から探すもんさ」
「この人はわたし達の持ち主じゃない。きっと、粗末に扱われる」
「でも、もしかしたら、こいつが新しい持ち主に会わせてくれるかもよ」
「対価も払わず、店主に黙って僕らを連れ去る人間なんて、信用できない」
誰かの話し声。
怖くて仕方がないという感じの声と、のんきな声が交互に聞こえる。
『連れて行く』とか『持ち主』とか、なんだか、おねえちゃんが読んでいる本のお話と同じようなおしゃべりだ。
他の子達をこっそり見ても、誰もぼくみたいにキョロキョロしていない。
聞こえているのは、ぼくだけ?
(そういえば、ママがあのあたりにいたっけ。ママは聞こえているのかな?)
そんなことをぼんやりと考えていたら、突然悲鳴がお店中に響いた。
「〈「助けて! 本泥棒に連れてかれる!!」〉」
ママのいる方からする声と、おねえちゃんの口から出た声が重なる。
それでぼくは気付いてしまったんだ。
不思議な声の正体は、ママのカバンの中に入れられたであろう本の声だ、って。
(ママ、ぼくとママは本泥棒じゃないよね?)
心臓が苦しいくらいにドキドキした。
違うよ、とママに言って欲しくて、立ち上がろうとしたその時――
〈「誰だ! 店の本を盗もうとする奴は?!」〉
地を這うような低くて恐ろしい声がして、それと同時に、みんなが騒ぐ。
腰を浮かせていたぼくも、あっ、と驚いた。
おねえちゃんの後ろに、なにかいる。
本棚よりも大きな怪獣の影が立っていて、これまた大きな口を開けていた。
表紙にいるあの怪獣だ!
怪獣は、あべこべの国の本屋さんを泥棒から守る竜だった。
本達の悲鳴を聞きつけて、やってきたんだ。
泥棒は竜の姿にすっかり怯え、慌てて逃げ出したけれど、本棚にいた本達が兵隊となって飛び掛かかり、泥棒はあえなく捕まった。
おねえちゃんの足元でも、あの小人が本の中から出てきた小さな本の兵隊に捕まって、ロープで体をぐるぐる巻にされている。
ああ、そうか。表紙で横たわっていた大木は、捕まった泥棒だったんだ。
〈「本を盗む悪い奴め! お前をこらしめた後は、お前が盗んできた物と同じようにどこかに売り飛ばしてくれるわ!」〉
竜の怒りに触れ、本の兵隊に担がれてどこかに運ばれる泥棒。
一冊の本が、どさくさに紛れて泥棒の覆面を剥がした。
まっ黒な覆面の下から出て来たのは、なんと、ぼくの顔!
「そんな! なんで、泥棒がぼくの顔してるの?!」
ぼくはびっくりして、思わず叫んでしまった。
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