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◆◇◆◇
〈みんなは【あべこべの国】を知っている?
【あべこべの国】は、ここからずっとずっと遠い所にあるんだよ。
"あべこべ"というくらいだから、この国にあるものはみんな"あべこべ"。
頭の上に浮かぶのは、海や地面。
足の下には、お空や雲が広がっている。
鳥は海深くまで飛んでいき、魚は空の果てまで泳ぐんだ。〉
「ねえ、みんな、まわりを見てごらん。ほら!」
おねえちゃんがふと、人さし指を立てて、腕を伸ばして大きく左右に振る。
みんなに何かを教えたいみたい。
つられておねえちゃんが指さした方を見れば、そこは今までいた本屋さんとは違う、おかしな世界になっていた。
たくさんの本棚はそのまま。
でも、天井は逆さまの海や森になっているんだ。
海の中では、赤や黄、青、緑の鳥達がパタパタと自由に飛びまわる。
床も板ではなくて空に、畳もピンク色の雲になっていた。
銀色や金色、宝石のようにピカピカな魚がスイスイとそこかしこを泳ぐ。
まるで、ぼくらは本の世界に迷い込んだみたいだった。
「うわあ、なにこれ」
「すごーい」
「魔法だー」
みんな、目をまあるくさせて、はしゃいでいる。
畳のまわりにいた大人達も、まわりの景色が突然変わり、自分達が空を浮いていることにびっくりしていた。
「どうなってるの、これ?」
「プロジェクションマッピングってやつよね。凝ってるわね」
大人も子供も大騒ぎだ。
おねえちゃんはまわりの人の反応にクスクス笑ってから、また本を読み始めた。
〈雨は下から上に降り、植物は上から下へ向かって伸びる。
水はあたたかで、火は冷たい。
昼間はとても暗くって、夜は明るいんだ。
だからこの国の生き物は、昼に眠って、夜起きる。〉
おねえちゃんが本を読めば、あたりには必ず何か不思議なことが起きる。
ぼく達のお尻の下や床に広がる雲から雨粒が舞い上がり、空からは木が生えた。
手品のように本から噴き出た水はあたたかで、水と同じように本から巻き上がった火はひんやり冷たい。
それに、水や火に触っても、濡れたり燃えたりしないんだ。
本当に魔法みたい。
おねえちゃんは魔法使いなの?
ううん、きっと違う。
これはたぶん、本の力。
あれは魔法の本なんだ。
(あの本ほしいな)
ぼくは心からそう思った。
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