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〈みんなは【あべこべの国】を知っている?  【あべこべの国】は、ここからずっとずっと遠い所にあるんだよ。  "あべこべ"というくらいだから、この国にあるものはみんな"あべこべ"。  頭の上に浮かぶのは、海や地面。  足の下には、お空や雲が広がっている。  鳥は海深くまで飛んでいき、魚は空の果てまで泳ぐんだ。〉 「ねえ、みんな、まわりを見てごらん。ほら!」  おねえちゃんがふと、人さし指を立てて、腕を伸ばして大きく左右に振る。  みんなに何かを教えたいみたい。  つられておねえちゃんが指さした方を見れば、そこは今までいた本屋さんとは違う、おかしな世界になっていた。  たくさんの本棚はそのまま。  でも、天井は逆さまの海や森になっているんだ。  海の中では、赤や黄、青、緑の鳥達がパタパタと自由に飛びまわる。  床も板ではなくて空に、畳もピンク色の雲になっていた。  銀色や金色、宝石のようにピカピカな魚がスイスイとそこかしこを泳ぐ。  まるで、ぼくらは本の世界に迷い込んだみたいだった。 「うわあ、なにこれ」 「すごーい」 「魔法だー」  みんな、目をまあるくさせて、はしゃいでいる。  畳のまわりにいた大人達も、まわりの景色が突然変わり、自分達が空を浮いていることにびっくりしていた。 「どうなってるの、これ?」 「プロジェクションマッピングってやつよね。凝ってるわね」  大人も子供も大騒ぎだ。  おねえちゃんはまわりの人の反応にクスクス笑ってから、また本を読み始めた。 〈雨は下から上に降り、植物は上から下へ向かって伸びる。  水はあたたかで、火は冷たい。  昼間はとても暗くって、夜は明るいんだ。  だからこの国の生き物は、昼に眠って、夜起きる。〉  おねえちゃんが本を読めば、あたりには必ず何か不思議なことが起きる。  ぼく達のお尻の下や床に広がる雲から雨粒が舞い上がり、空からは木が生えた。  手品のように本から噴き出た水はあたたかで、水と同じように本から巻き上がった火はひんやり冷たい。  それに、水や火に触っても、濡れたり燃えたりしないんだ。  本当に魔法みたい。  おねえちゃんは魔法使いなの?  ううん、きっと違う。  これはたぶん、本の力。  あれは魔法の本なんだ。 (あの本ほしいな)  ぼくは心からそう思った。
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