8人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
本屋さんにしのび込んだ泥棒は、そこでたくさんの不思議な本を見つける。
〈中は真っ白だけど、ひとりでに語りだす本〉
〈『わたしを読んで』と歩いてやってくる本〉
〈絶対に開かない本〉
〈『お話を聞かせて』とせがんでくる本〉
〈「やっぱり、ここには面白い本がいっぱいだ。どれを持っていってやろうか迷うなあ」〉
(ああ、わかる。ぼくもそうだもん)
こんなのがあれば面白いのになと思うような本ばかりで、実際にそれを見たら、ぼくも持っていきたくなるだろう。
(この泥棒とぼくは一緒だな)
そう考えて、ふと、胸のあたりがモヤモヤした。
(あれ? 待てよ。泥棒って、なんだっけ?)
物語の泥棒は、きっとこのあと、たくさんの本を本屋さんから持ち去るのだろう。
お金なんて払わない。だって、泥棒だから。
(でも、それって、ぼくとママがしているのと同じことじゃない?)
ドキリ。
心臓が大きく鳴った。
(それじゃあ、ぼくも泥棒なの?)
ドキドキドキ。
胸の中で、心臓がジタバタと暴れる。
(どうしよう、ぼくは悪い子かもしれない)
――わたし達だけ"トクベツ"なのよ。
混乱する頭の中で、ママの言葉が突然浮かんだ。
(ああ、そうだよ。ぼく達は"トクベツ"に本を持っていっていいんだ。ああ、よかった、ぼくは悪い子じゃない。ビックリした)
ホッと胸を撫で下ろしていると、誰かに見られているような気がした。
視線は頭の後ろの方と、おねえちゃんのいるあたりから感じる。
そっと後ろを振り向く。
いるのは本棚に向いたお客さん達だけ。誰もぼくを見ていない。
なら、前は?
おねえちゃんの方に向き直ると、その足下に小人がいた。
その小人の顔が、こちらを向いている。
まっ黒な覆面に空いたふたつの目の穴から、まるい目がぼくをジッと見ていた。
(なんで、ぼくを見ているの?)
戸惑って二、三度大きくまばたきをする。
次に小人を見た時には、ぼくを見ていたことなどなかったかのように前を向いていた。
なんだろう。なんだか、イヤな予感がする。
最初のコメントを投稿しよう!