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 本屋さんにしのび込んだ泥棒は、そこでたくさんの不思議な本を見つける。 〈中は真っ白だけど、ひとりでに語りだす本〉 〈『わたしを読んで』と歩いてやってくる本〉 〈絶対に開かない本〉 〈『お話を聞かせて』とせがんでくる本〉 〈「やっぱり、ここには面白い本がいっぱいだ。どれを持っていってやろうか迷うなあ」〉 (ああ、わかる。ぼくもそうだもん)  こんなのがあれば面白いのになと思うような本ばかりで、実際にそれを見たら、ぼくも持っていきたくなるだろう。 (この泥棒とぼくは一緒だな)  そう考えて、ふと、胸のあたりがモヤモヤした。 (あれ? 待てよ。泥棒って、なんだっけ?)  物語の泥棒は、きっとこのあと、たくさんの本を本屋さんから持ち去るのだろう。  お金なんて払わない。だって、泥棒だから。 (でも、それって、ぼくとママがしているのと同じことじゃない?)  ドキリ。  心臓が大きく鳴った。 (それじゃあ、ぼくも泥棒なの?)  ドキドキドキ。  胸の中で、心臓がジタバタと暴れる。 (どうしよう、ぼくは悪い子かもしれない)  ――わたし達だけ"トクベツ"なのよ。  混乱する頭の中で、ママの言葉が突然浮かんだ。 (ああ、そうだよ。ぼく達は"トクベツ"に本を持っていっていいんだ。ああ、よかった、ぼくは悪い子じゃない。ビックリした)  ホッと胸を撫で下ろしていると、誰かに見られているような気がした。  視線は頭の後ろの方と、おねえちゃんのいるあたりから感じる。  そっと後ろを振り向く。  いるのは本棚に向いたお客さん達だけ。誰もぼくを見ていない。  なら、前は?  おねえちゃんの方に向き直ると、その足下に小人がいた。  その小人の顔が、こちらを向いている。  まっ黒な覆面に空いたふたつの目の穴から、まるい目がぼくをジッと見ていた。 (なんで、ぼくを見ているの?)  戸惑って二、三度大きくまばたきをする。  次に小人を見た時には、ぼくを見ていたことなどなかったかのように前を向いていた。  なんだろう。なんだか、イヤな予感がする。
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