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 ぼくの声に、お店にいる人みんなが一斉にこっちを見る。  おねえちゃんもぼくを見ていた。  その大きな目が、なんだかぼくに怒っているみたいで、思わずぼくは叫ぶ。 「ちがうよ! ぼくは泥棒じゃない!! だって、ママが言ったんだ。ぼく達は"トクベツ"って」  ザワザワザワ……  みんなのぼくを見る目が怖い。  誰かのヒソヒソ声が聞こえる。 「泥棒って言ったわよね」 「あんなに小さな子が万引き?」 「あの子が抱えている本、まさか盗むつもり?」 「親はどういう育て方をしているのかしら」  おねえちゃんのうしろで、竜の影が大口を開けてぼくの方を向く。  怒ってる。  何故だか、すぐにそう感じた。 「ちがう、ちがう!」  ぼくは首を乱暴に横に振って、慌てて出口へと駆け出した。  扉を潜って外に出た瞬間、ガッシと右肩を掴まれる。  驚いて、足を止めて肩を見ると、水色の小さな怪獣――本を守る竜と同じ姿のものが、肩に捕まっていた。  あの大きな竜の子分かな? 「ねえ、キミ、ドロボー?」  竜は、鈴を転がしたような高くてかわいい声で尋ねる。  その青い目があまりにもキレイで、じっと見詰められると、ぼくは自信を持って違うとは言えなかった。 「ジイジ、ゆう。ジイジ、『どうぞ』ゆってないのに、ごほんもってくひと、ドロボーって」  辿々しく小さな竜が告げるけど、ぼくは「ちがう」と弱々しく呟くことしかできない。 「ぼくとママは"トクベツ"なんだ。ママが言ったんだよ。本を黙って持っていっていいって!」 「ちょっと! 何言ってんの!」  パンッ  怒鳴り声がしたと思った次の瞬間、左のほっぺに何かが勢いよく当たり、ぼくは尻もちをついた。  ママだ。  ママにぶたれた……。
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