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9.桜小路学院の夜
隆義は、黙々と手を動かしていた。
もはや手慣れた操作で、操縦桿を握り、機械の腕を動かしている。
山陽地方特有の、凪。
辺りの風は完全に止まり、周囲にはシ式のエンジンが立てる音と、静かな振動が響くだけだ。
隆義が何をしているのか──健斗たちを足止めする為に崩した、崖の土砂と倒木の後始末である。
その隣では、心が乗るジャグリオンが作業を手伝ってくれていた。そのおかげで作業は思ったよりも早く進み、とりあえず校門前に陣取った倒木を、真っ先に崖下へと動かす事ができたのだ。
[結構片付いたね……]
無線機を通じてノイズが混ざった声で、心が語り掛ける。
隆義はそれを聞きつつ、片方のタイヤが取れた豪攻車を、校門から学校の敷地の中へと引っ張っていく。
「ええと、無線で呼ぶ時は──」
[ココだよ~]
「了解、ココ。俺も通信で呼び合う時の名前を考えなくちゃいけないのか……」
豪攻車を引き摺り、地面に擦れた跡を残しながら、隆義はふと考える。
果たして、自分がどうのように呼ばれる事になるのかを……。
だが、今は優先するべき作業がある。──自分が、ここ桜小路学院海田市校を守る為とは言え、意図的に崖を崩したのだ。
その後始末は、どうしてもしなければならなかった。
「私が持ってきたスコップが、早速活躍してくれましたね──」
作業をしている隣、学校の敷地を囲む塀の上から、あいちゃんがにっこりと笑う。
そしてシ式が豪攻車を引っ張ってきた場所……それは、彼女の足元であった。
隆義は、自分の正面にある除き窓を前に押し開き、支え棒でそれを固定すると、シ式にできるだけ上を向かせた。
たちまち、視界にあいちゃんの姿が入ってくる。
「あいちゃん、持ってきた。……こいつをどうする?」
「応急修理をしてマスターの所に戻ります。ちょっと遠いので、乗り物が必要ですから」
「タイヤが片方吹っ飛んでるんだぞ?……大丈夫?」
「修理に使えそうなトラックの残骸が、山のふもとに残っています」
「次はそれを回収すればいい?」
「はい。工具があればいいのですが──」
「この学校にだって、木工にしろ機械にしろ、工作室はあるはず。……相談してくるよ」
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