9.桜小路学院の夜

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「……?」  菊花は、そこを静かに確かめる。  車のドアに付いているようなロックがあり、ソファーか椅子の背もたれのような物が内張りとして付いている事を確認すると──不安から逃れようとするかのように、そのコクピットの中へと入った。  だが、肝心の椅子は──菊花は正面のコンソールに見える物を手で探った。 「何これ……車のキーみたいじゃけど……」  スタータースイッチに刺さったままの鍵。菊花はすかさず、それを捻る。  すかさず、キュルルルル……とセルモーターの音を立てながらエンジンが始動し、電気の淡い灯りが目の前のコンソールを照らし出した。 「このレバーは……?」  椅子の左右にある、人間の腕のような構造のレバー。  菊花はそれを適当に動かす。すると、正面に動かした際に、機体が持ち上がるような感覚を感じ── 「これで腕が動いとるん……?」  とにかく、今はこいつを立たせよう。じゃないとシートに座れない。  菊花はそう思うと、豪攻車に両手を突かせ、塀に向かって地面を這わせた。  間もなく片手が塀に触れ、菊花はさらに腕を操作して、両手で豪攻車そのものを塀に支えさせると、エンジンを停止させる。  これで、タイヤを失った方向にやや傾いてはいるものの、菊花はシートに座る事ができた。  虫の泣き声だけが響く、夜の暗闇と静寂。  いや、校舎と寄宿舎、そしてグラウンドを照らす照明が辺りを照らしている。  山の下には海田市の街並みが夜景の光を発しているが、広島市は電気が止まってしまったのか真っ暗だ。  菊花はぼんやりと、開きっぱなしの背部ドアからその様子を眺めていた。 「誰か……中にいるんですか?」  静寂を破ったのは、聞き覚えのある声だ。 「……夕凪さん? どうしてここに」 「あぁ、委員長……ちょっと考え事よ。ウチの弟が、厄介事を持ちこんでしもうたかな……って」  菊花の目の前に、眼鏡をかけたベリーショートの髪の少女が姿を現す。  どうやら校内の見回りをしているのか、手には薙刀の竹刀を持っている様子だ。 「委員長は、薙刀持って何しとるん?」 「はい、剣道部や空手部の皆様と話し合った結果、薙刀部と弓道部も加わって校内を見回りしようという事になりまして」 「委員長の薙刀はまだ竹刀じゃけど弓道部のは……」
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