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話は、心にも聞こえている。
直後に、塀の上にいるあいちゃんのすぐ近くを、ジャグリオンが飛び越していく。
隆義はあいちゃんからジャグリオンに視線を移すと、その着地点を目で追った。
[じゃあ、ボクはダメージの様子を見るよ~。タイヤが吹き飛んだだけか、ブレーキやホイールハブも一緒に飛ばしちゃったかで、直す難易度が変わるからね~]
「お願いしますね、ココちゃん」
[は~い、お任せあれだよ~]
「それじゃあ……工具、借りてくる」
隆義は二人の会話を無線で聞きながら、シ式を校舎に向かって小走りさせる。
だが、改造後のシ式は、見違えるように変わった所がある──その一端を、隆義は耳で感じ取っていた。
「鉄のぶつかる音がしなくなってる」
「うん、しずかになっとるねぇ……」
[急ぐなら、ホバーを使った方が早いよ!]
「ホバー?」
[操縦桿の、左手の方! スロットルレバーが追加されてるでしょ?]
日没寸前の空だが、まだ陽の光はある。
隆義は正面と上面の窓からの光を頼りに、操縦桿周りに追加されたそれを探し当てた。
「これか……?」
前後に進むレバー。隆義はそれを左手で掴むと、レバーを一気に最大出力の位置まで押す!
その瞬間、掃除機のような音が機体の下から響き渡り、砂埃がぶわっと地面に広がった。
だが、出力が強すぎたのか──シ式は地面から浮き上がり、その脚はわたわたと、何にも当たらない宙を蹴る。
「っておい! な、な、なんだこりゃぁ!」
[いきなり出力を上げすぎ! 真ん中ぐらいの位置までレバーを引いて!]
心に諭されて、隆義はスロットルを半分の位置まで引き戻すと、どうやらこれが丁度良い出力の位置らしく、高度を上げたシ式はゆっくりと地面に降り始めた。
あたふたと動く脚が再び地面に触れ、上下に機体を揺らす。
「っとと!」
[慌てないで。テレビとかでカンガルーを見た事あるでしょ?──思い出して]
「そうか!」
「か、かんがるー? って、なに──?」
これまでとは違うのだ。隆義は落ち着いて脚の動きを止め、ホバーをふかしたままその場に停止する。
きゅーちゃんはカンガルーを知らない様子で、頭に?マークを浮かべるが、咄嗟に隆義の頭に手を触れて思考を読み始めていた。
今、隆義の脳裏には、オーストラリアのだだっ広い平原を跳ねながら進む、カンガルーの群れの姿が思い出されている。
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