9.桜小路学院の夜

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 菊花がずばりと思った事を口にした瞬間、日向は絶句した。  自分の子供を戦場に出すか?──それを自分で判断するには隆義の年齢では少し早すぎるのでは?  そんな考えが脳裏をよぎる。と、同時に、保健室前で止まっていたシ式から、再びエンジンの音が響く。  シ式の操縦席──。  隆義は、大きな工具箱をその後ろに置くと、無線のスイッチを入れる。 「一応、工具を貸してもらった。役に立つかは解らないけど」  それを通じて心に話しかけながら、隆義はシートベルトを締めた。  校門前では、隆義の声に反応した心が、ジャグリオンのシートに戻って来る。 [トラック動くかなぁ? 思いっきり狙撃砲で撃っちゃったけど] [ココちゃん、ジャグリオンの中にお邪魔しますね。山の下にあるトラックの所まで行きましょう] [あいさー]  無線の先で聞こえる声。  それに対し、隆義も── 「了解」  一言、応えた。  今、太陽は完全に地平の向こうへと沈み、夜の闇が辺りを覆い始めている。陸風と海風が均衡して風は止まり、夕方の凪の時が訪れていた。  そして凪の静寂を切り裂くように、ジャグリオンとシ式が動き出す。  二機は背中のエンジンと、脚部に仕込まれた遠心ファンの音を響かせて、校門の外へと飛び出していった。   「行ったにゃ」  ここは保健室。  ちかは猫耳で、文字通りの聞き耳を立てながら様子を伝える。 「門を開ける音は聞こえなかったから、飛び越えていったみたいにゃ……」  スカートの下で、二つに分かれた尻尾が左右に振れる。 「今は危ないからね……。また、あの人たちが来るかもしれない」  この猫又少女の目の前には、魔女のような雰囲気を放つ聖叉の姿──。  聖叉はタロットカードをさもトランプカードのようにシャッフルすると、そこから上の三枚のカードをデスクの上に置く。 「愚者(ザ・フール)、戦車(チャリオット)──死神(デス)」  左から順番に置かれたカードを表に向け、読み上げる聖叉。  やり方を若干省略しているが「スリーカード・オラクル」という占い方だ。 「誰の運命かにゃ?」 「彼──まだ、迷う原因があるかもしれないね」 「心が連れて来た、あいつの事?」 「うん。……戦車のカードに描かれた二頭の白と黒の馬は、左右別々の方向に進もうとしている。進む方向を決断して御さないと、大変な事になるっていう意味さ」
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