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菊花がずばりと思った事を口にした瞬間、日向は絶句した。
自分の子供を戦場に出すか?──それを自分で判断するには隆義の年齢では少し早すぎるのでは?
そんな考えが脳裏をよぎる。と、同時に、保健室前で止まっていたシ式から、再びエンジンの音が響く。
シ式の操縦席──。
隆義は、大きな工具箱をその後ろに置くと、無線のスイッチを入れる。
「一応、工具を貸してもらった。役に立つかは解らないけど」
それを通じて心に話しかけながら、隆義はシートベルトを締めた。
校門前では、隆義の声に反応した心が、ジャグリオンのシートに戻って来る。
[トラック動くかなぁ? 思いっきり狙撃砲で撃っちゃったけど]
[ココちゃん、ジャグリオンの中にお邪魔しますね。山の下にあるトラックの所まで行きましょう]
[あいさー]
無線の先で聞こえる声。
それに対し、隆義も──
「了解」
一言、応えた。
今、太陽は完全に地平の向こうへと沈み、夜の闇が辺りを覆い始めている。陸風と海風が均衡して風は止まり、夕方の凪の時が訪れていた。
そして凪の静寂を切り裂くように、ジャグリオンとシ式が動き出す。
二機は背中のエンジンと、脚部に仕込まれた遠心ファンの音を響かせて、校門の外へと飛び出していった。
「行ったにゃ」
ここは保健室。
ちかは猫耳で、文字通りの聞き耳を立てながら様子を伝える。
「門を開ける音は聞こえなかったから、飛び越えていったみたいにゃ……」
スカートの下で、二つに分かれた尻尾が左右に振れる。
「今は危ないからね……。また、あの人たちが来るかもしれない」
この猫又少女の目の前には、魔女のような雰囲気を放つ聖叉の姿──。
聖叉はタロットカードをさもトランプカードのようにシャッフルすると、そこから上の三枚のカードをデスクの上に置く。
「愚者(ザ・フール)、戦車(チャリオット)──死神(デス)」
左から順番に置かれたカードを表に向け、読み上げる聖叉。
やり方を若干省略しているが「スリーカード・オラクル」という占い方だ。
「誰の運命かにゃ?」
「彼──まだ、迷う原因があるかもしれないね」
「心が連れて来た、あいつの事?」
「うん。……戦車のカードに描かれた二頭の白と黒の馬は、左右別々の方向に進もうとしている。進む方向を決断して御さないと、大変な事になるっていう意味さ」
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