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「かかりました」
低い唸りと振動が、隆義たちにも伝わってきた。
心は運転席の後ろに歩き、燃料タンクの様子を確認すると、前方に向かって声をかける。
「大丈夫だよ、あいちゃん。燃料漏れも無いみたい」
どうやらこのトラックは、運転していた族が心に撃たれた直後、エンストで止まってしまったようだ。
あいちゃんは肝心のエンジンが動く事を確認すると、キーを捻ってエンジンを停止させる。
「ハンドルを何とかすれば動けそうですね。ただ、大型トラックのハンドルって左右それぞれ二回転半も回しますから……」
「普通の車だと、どんぐらい?」
「普通車は左右に一回転半ですよー。大型車と普通車だとハンドルの切れ角が違うんです。車体が長いので、普通の車と同じハンドルの切れ角だと交差点を曲がれないんです」
隆義は急いでシ式に戻ると、座席の後ろに置いた工具箱を抱える。
果たしてこの道具で大丈夫か? そう考えながらも、踵を返してあいちゃんの元へ──
「さて……中身は、と」
隆義が箱を開ける。
まず目に飛び込んできたのは、バッテリー式の電動ドリルだ。一緒に交換アタッチメントも入っている。
「ドライバーにもなるみたいだ。六角レンチのアタッチメントもあるぞ」
「良い物を常備してますねぇ……ん、あれは?」
あいちゃんが何かに気付き、助手席をごそごそと探った。
そこから出て来た物は……。
「竹刀?」
恐らく、乗っていた族が武器として持ち込んだ物なのだろう。
剣道の竹刀がそこから姿を現した。
「仕方がありませんね、これをハンドルの代わりにしましょう」
「できるかな……」
「工具箱を貸してください。解決策を思いつきましたので」
あいちゃんに言われるまま、隆義は彼女に工具箱を手渡す。
電動ドリル、ニッパー、ノコギリ、何かの予備に使うらしいボルトとナット……あいちゃんは工具箱の中身を確認し、必要な物を助手席の上に置いていく。
まず最初に握られたのはニッパーだ。
竹刀の先端の先革、刀身の竹をまとめる中結び、そして手で握る柄革を、ハサミのように扱って切り裂き、刀身を分解──
たちまち、竹刀だったそれは長い定規のような四つの竹の板棒と化し、今度はその内の一本をノコギリで半分の長さに切断──ハンドルが無くなった基部に宛がう。
今度は道具を電動ドリルに持ち替えると、宛がった竹棒の中央に穴を空けた。
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