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「何とかなりそうですよ~」
言いながら、アタッチメントをドリルからソケットレンチへと交換、元のハンドルを固定していたであろうナットを取り外す。
そして先程穴を空けた板状の竹棒を、まるで自転車のハンドルを無理やり取り付けるかのように、そこへ固定し直した。
「だ……大丈夫なのか……?」
仕方が無いとは言え、あいちゃんが実行した手段は、無理矢理まかり通るとも言える力業である。
隆義は口元を少し引きつらせつつ、その様子を見守った。
「ちょっと試運転しましょう、一旦バックします。念の為少し離れていてください」
道具を素早く工具箱に戻しながら、あいちゃんはトラックのエンジンをかけ直す。
隆義と心は、心配な面持ちで二歩三歩と後ずさりすると、ゆっくりと後退するトラックの様子を見守った。
「あいちゃん大丈夫?」
「はいっ。パワーステアリングの機能も無事みたいで、大丈夫そうです。」
トラックが、停止する。
「一旦、学校へ戻りましょう」
あいちゃんはそう言うと、トラックのドアを閉めた。
「ボクたちも行こう──」
「了解」
心はジャグリオンの方へ、隆義はシ式改の方へ、それぞれ駆け足で戻り、機体に飛び乗る。
こちらも再びエンジンが回り、大きくジャンプしながら坂道を駆け上がり始めた。
あいちゃんが運転する大型トラックも二人の後を追い、ゆっくりと坂を登る。
正門前。
今は綺麗に片付けられたが、隆義が起こした土砂崩れは五機の豪攻車を巻き込んだ。
その内、心に片輪を吹き飛ばされた一機が、学院の敷地の中に運び込まれている。
だが、正面から地面に突っ伏しているそれを静かに眺める人影があった。
隆義の姉・夕凪 菊花その人である。
「……」
菊花は無言のまま、倒れて動かない豪攻車を睨み続けている。
「隆義のバカ」
八つ当たり……と言うには力が籠っていないが、菊花は豪攻車を軽く爪先で蹴った。
要領の悪い弟の事だ、きっとこれから逃げ回るか戦うかの二択を迫られるに違いない。
菊花の心の内は不安だらけだ。この事に自分と母のみならず、友人たちやその家族まで巻き込まれるであろう現実が、鋭利な刃物のように突きつけられているのだ。
「……冗談じゃないわ」
目の前のポンコツ──菊花はそう思いながら、再び黒い機体を凝視する。
と、よく見ると豪攻車の背中が開いているではないか──。
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