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いくつか質疑応答を繰り返すうちに、何時の間にか日が傾いていた。そんなに長時間話していただろうか。
「この世界には異世界転生とかそういうの、あるんでしょうか?」
我ながら馬鹿なことを訊いていると思う。こんな質問、会って間もない人にされたらこの世界に来る前の"私"だったら十中八九頭が可笑しいか何かの冗談だと思ってしまうだろう。
暫しの沈黙の後、狼がゆっくりと息を吸う音が聞こえた。
「……まさか貴様、転生者か……。」
質問を質問で返さないで下さい。そんなこと言ったら最後俺の首がとびそうなので止めておく。狼さんの反応から察するに、どうやら転生者というのは存在しているらしい。これも常識なのかな、なんて考えつつ小さく頷く。
「ふむ、成る程。それで異様に無知だった訳か。」
い、異様と言われた……。え……そ、そんなに?
妙に納得した面持ちの狼さんを見て、思わず苦笑い。
「い、異世界転生者って俺の他にもいるんですか?」
「嗚呼、近年増加しているらしいが、お前のような異質な者は我も初めて見る。」
うん、取り敢えず良かった。聞くのは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うもんね。ん?それはなんか違うか?まぁ、結果的に自分の他にも同郷の人がいるって知れたからいいや。勿論その人たちに会いたい訳なんだけど、俺町の行き方知らないしなぁ。そもそも歩いて行ける距離なのかな。不安は募るばかり。
町、あるかなぁなんて、思わず口に出たそんな言葉をかき消すように冷たい風が体を襲った。俺は寒気がしてぶるっと一度身震いをする。
「っ、はっくしゅんっ!」
くしゃみの反動で出てしまった鼻水をすすりながら、自分が制服しか着ていないことに気がついた。そんなに厚い生地でもないし、風邪ひいちゃうかな。せめてカーディガンとかあればなぁ。
「……人間、貴様名は何という。」
落ち着いてから今まで質疑応答の他に言葉を発することのなかった狼さんが初めて此方に話しかけてきた。少し驚いたが、それよりも不思議に嬉しく感じた。
「ノア、です。」
無意識に名前だけ口にしたのは、ここがファンタジーの世界だと認識しているからだろうか。
「ノアか、なかなか良い名ではないか。」
なんだか自分の名前を誉められると照れるな。
少しは警戒解いてくれたのかな、なんて考えが甘いのだと分かるのはもう少し後の話だ。
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