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あまりに現実離れした状況に頭が着いていけず、私はその場にへなへなと座り込む。
いったい……どうなってるの?
これは実は天国のどこかで自分は既に死んでいるんじゃないか、ふいにそういう疑問が頭を過って、私は自分の身体に視線を遣った。
あれ?
白いワイシャツに青のストライプ柄のネクタイ、紺色のカーディガン。そして、灰色の長ズボン。
これ、男子の制服だ……。
え?いやいや、私にそんな趣味はありません決して。
まず持ってないし、と誰に向けるでもない言い訳が脳内をぐるぐると繰り返し回る。そういえば、なんだか肩幅が広いような……。それに、いつもより少し身体が軽い気もする。うーん、とそんな不思議な違和感に首を傾げて唸った。
そういえば、あれ?頭も軽い……。
そうして、触って初めて気づいた。
ミディアムぐらいの長さがあった私の髪の毛はベリーショートに短く切られてしまっていることに。それから、腕も足もただ軽いだけではない。細く、しっかりと鍛えられた陸上部の如く筋肉がついていた。胸はもともとなかったが、もっとなくなっている。というかこれは……。
私って、あれ?男になってる……?
そこからはあまり記憶がないが、必死に森の中を駆けていて、ふと気付くと私、いや俺(?)は湖の畔に立っていた。
水面にはオトゲー(乙女ゲーム)かよ、とツッコミを入れたいぐらいのイケメンがその無気力そうな瞳を此方に向ける姿が映されている。
これが……私?
シルクのような質の良い美しい金の髪に深い緑の瞳、透き通るような肌。正に、眉目秀麗という言葉が水面に映る彼には相応しい。
私はこういう時の定番の確認として、自身の頬をつねってみる。すると、水面に映る彼も無表情で同じように頬をつねっている。
いたっ……。
水面に映る彼は顔を歪めて頬から手を離したかと思えば、赤くなった頬を今度は擦り始めた。
"私"はこの日、"俺"になった。
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