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さて、どうしたものか。
此処が不思議なことに現実の世界だっていうのは間違いないみたいだ。それは、まぁいいとして。
問題はこれからどうして生きていくか、ということだ。制服は着ているものの、現状無一文の私、じゃない俺はそんな疑問を抱えながら、なんとか元の場所に戻ってきた。ここが一番落ち着くのだ。
定番でいけば、ここは別世界。貨幣価値も人々を取り巻く環境も違う筈。まぁ、それだけならまだ大して問題はない。問題あるけど。
ここには、現実離れした生き物がいるのだろうか。
いた場合は、終わりだ。丸腰の俺は手も足も出ないだろう。そして、この素晴らしい人生の幕が降りてしまう。それだけは避けたい。
折角イケメンとして生まれ変われたんだから人生を謳歌したいのである。まぁ、こんな大自然の中では人生謳歌も何もないのだが……。
俺が悶々とそんなことについて考えていると、突然上からぼたぼたと粘液のような液体が落ちてきたものだから、咄嗟に上を向く。
と、虎……?
規格外に大きいその虎は荒々しく唸り声を上げて俺に襲いかかってきた。
う、嘘でしょ。やっぱりいたんだこういう奴!
もう終わりだ、と匙を投げた俺は次に襲いくる痛みに向けて反射的に目を瞑る。しかし、いつまで経っても痛みは襲ってこない。状況に痺れを切らした俺が目を開けると、やはり目前には俺に向かって爪を構える虎の姿。俺は思わず情けなくひっと小さく悲鳴を上げた。
だが、虎はいつまで経ってもその足を俺に降り下ろすことはない。その時だ。地を這うような恐ろしく低い声が俺ごとその虎を射抜いた。
「我の睡眠を邪魔するとは、小物風情が……!」
ぐるるるると低く唸り声を上げる巨大な何かに俺は身体が硬直して、動くことができない。すると、目前で足を構えていた虎は地に足をそうっと落として森の奥深くにその姿を消していった。
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