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地を震わすような唸り声を上げたその巨大な何かは、そう一言低く恐ろしい声で吐き出すと、音もなく地に伏せ、頭を垂れて丸くなり、そのまま動かなくなった。そういえば、先程睡眠がなんとかとか言っていたことを思い出して、眠っているのだと分かった。どうやら、ずっと此処に寝ていたようだ。見覚えのある銀色に、壁だと思ってた、なんて心の中で呟いた。
巨大な何かがそうしてから暫く経って、やっと動けるようになった俺はまだ少し震える足を無理矢理立たせ、その巨大な何かを空を仰ぐように見る。その巨大な何かは灰色に近い銀色の毛を纏っていて、丸くなって眠っていることから四足歩行の動物なのではないかと思った。
……でかい……。
先程の巨大な虎を優に超すその毛むくじゃらの影は俺とその周辺の物を飲み込んで、大きな影を作っていた。先程の虎が一声で尻尾を巻いて逃げてしまった相手。当然俺がどうこうできる相手ではない。しかし、そんなことはどうでも良かった。
この毛むくじゃら……さっき、喋ったよね?
知恵がなく無差別に襲い掛かる生き物は避けるべきだが、この毛むくじゃらの動物は明らかに知恵がある。知恵があるならば無差別に襲い掛かることはおそらくないだろう。自分にとって害のないものであると理解してくれれば、少なくとも目の前の毛むくじゃらは大丈夫な気がする。
そんな不思議な感覚に支配された俺は、とっくに震えの治まった足を一歩、また一歩と静かな寝息を立てる毛むくじゃらへと近づけていった。
何か、知ってるかもしれない……。
ここがどこなのか。そして、この森の出口。それぐらいは知っていても可笑しくはないだろう。動物が人語を操るためには長い時は生きなければならないという話をどこかで聞いたことがあるからな。
声を出そうとして、唇が震えた。
もし、襲われたら?もし、食べられたら?
敵うわけがないと心の中で乾いた笑いを浮かべる俺は、それでもなるべく穏やかな声音で角を立てないように話しかけた。
「……あの、少しお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
すると、また音もなく頭を持ち上げた毛むくじゃらは此方に背を向けている体制のまま、顔だけ此方に向いて不機嫌そうに顔を潜めて口を開く。
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